| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-044 (Poster presentation)
植物のクロロフィルは吸収した光エネルギーの一部を用いて微弱な蛍光を発している。太陽光誘起クロロフィル蛍光(SIF)は、陸域植生の総一次生産量(GPP)と強い相関を持つことが示されている(Joiner et al.,2011 & Frankenberg et al.,2011)ため、それらを生態系モデルで利用することでGPPの推定精度が向上することが期待される。
VISIT-SIFは陸域生態系の物質循環を再現するプロセスベースモデルであり(Ito,2010)、観測SIFをデータ同化することで最適なパラメータを得て、炭素収支の推定精度を向上させる研究が期待されている(Miyauchi et al.,2025; Fan et al.,2025)。同モデルは気象データ、観測サイトの地理的特性や土壌の特性、生理・生態学的パラメータに応じて生態系の炭素収支を再現することができ、また放射伝達モデルSCOPE(van del Tol et al.,2014)を用いてSIFの時空間的な変動を再現することができる。
本研究では、山梨県富士北麓のカラマツ林(35.44˚N, 138.76˚E, 海抜1105m, 年平均気温8.9℃, 年間降水量1831mm)においてSIFのデータ同化を行うことで、グローバルスケールでの炭素収支の推定精度向上に寄与することを目指す。同地では微気象およびCO2フラックスの観測の他(Takahashi et al., 2024)、2021年からSIFの地上観測が行われている。本研究では2006~2023年の微気象データ(気温,大気圧,風速,降水量,湿度,下向き短波・長波放射量, 30分ステップ)を用いてVISIT-SIFによりGPPの推定値を算出し、観測値と比較して推定精度を評価する。さらにSIFの推定値と2021~2023年の観測値を用いてパラメータの最適化を行うことで(ベイズ最適化)、GPPの推定精度を向上させることを目指す。
上記の気象データを用いてGPPの推定値を算出し、観測値と比較したところ、データ同化前ではrRMSE=10.72625、R^2=0.8417となった。今後はSIF観測値に対するパラメータ最適化を進め、GPP推定精度の向上を評価する。