| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-046  (Poster presentation)

シダ植物で道管をもつ種と仮道管のみの種の光合成と水利用の比較【A】【O】
Photosynthesis and water use in two fern species with and without vessels.【A】【O】

*古館旦陽, 山内理紗, 澤上航一郎, 種子田春彦(東京大・日光植物園)
*Furudate ASAHI, Risa YAMAUCHI, Koichiro SAWAKAMI, Haruhiko TANEDA(Nikko Botanical Garden)

 維管束植物の通水組織は仮道管と道管要素の2種の要素で構成される。仮道管は細長く、それぞれが壁孔壁を有する壁孔で連結するが、道管要素どうしは壁孔壁のない穿孔で連結し太いパイプ状の道管となる。仮道管と道管の形態学的な違いをその生理生態学的な機能と結びつけた研究は、木本の種子植物で先行しており、壁孔壁をもたない穿孔を水が通過する頻度が高く、径が大きい道管は通水効率に優れているとされている。維管束植物の進化において初期から存在しているシダ植物では、多くの種で通水組織は仮道管のみで構成されているが、一部の種では仮道管に加えて道管も含むことが報告されており、道管の獲得はシダ植物で複数回起こっていると考えられている。
 本研究では道管をもつシダ植物は優れた通水効率によって高い光合成速度と気孔コンダクタンスが実現できるという仮説を立てた。道管の有無という形態学的な差異が、光合成や水利用などの生理生態学的形質において、より適応的となっているかを道管をもつシダ植物としてワラビ(Pteridium aquilinum L.)、仮道管のみをもつシダ植物としてゼンマイ(Osmunda japonica Thunb.)、被子植物の草本としてシラヤマギク(Aster scaber Thunb.)を比較し検証した。道管をもつワラビでは、被子植物のシラヤマギクと同程度の気孔コンダクタンスと光合成速度を示したが、道管のないゼンマイとの比較では、ワラビはゼンマイよりも高い光合成速度と気孔コンダクタンスを示した。日中の蒸散流速が飽和する大気飽差にワラビとゼンマイで有意な差がなかったことから、同程度の蒸散流速でも高い光合成速度を維持しているワラビの方が水利用の効率が高いことが示された。日中の水ポテンシャルはワラビでゼンマイとともに萎れ点付近まで低下するが、同じ時間帯でシラヤマギクの水ポテンシャルは顕著に小さく、ワラビの通水コンダクタンスが低いと考えれられることからワラビの道管の通水効率は被子植物ほど高くない可能性が示唆された。


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