| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-048 (Poster presentation)
植物の葉の形質は、年平均気温によって変化する。高緯度の低温域ほど、落葉樹では葉が薄く柔らかくなり、常緑樹では逆に厚く頑丈になる。一方で、両者は、ともに低温域で、葉の13C安定同位体濃度が増加し、葉緑体内のCO2濃度(Cc)の低下が示唆されている。本研究では、気温低下に伴う、常緑樹と落葉樹の分化と収斂について、ルビスコのキネティクスに注目して解明することを目的とする。低温では、ルビスコによる光呼吸が抑制され、CO2固定効率が相対的に向上するため、より低いCcでも効率的に光合成を行うことができる。Ccの低下により光合成能力は増加するため、葉緑体内へのCO2の拡散のしやすさである葉肉コンダクタンス(gm)の制限は緩和されると考えられる。低温でgmの低下が許容されることで、常緑樹では葉肉細胞の細胞壁の厚さ(Tw)を増大させて葉を厚く頑丈にでき、落葉樹では細胞間隙に面する葉緑体表面積(Sc)を減少させる、すなわち葉を薄くできるのではないかと考えた。この仮説を立証するために、緯度の異なる4か所(苫小牧、仙台、京都、宮崎)で、落葉樹・常緑樹を複数含むように優占種を選定し、高所作業車を用いて林冠葉の光合成特性および物理化学的性質を測定した。
仮説通り、常緑樹では低温域ほどCcが低く、gmも低下した。葉面積あたり葉重量(LMA)も増加傾向にあり、厳しい冬に耐えるため頑丈になることにより、gmが低下した可能性がある。今後Twを実測して裏付けをとる必要がある。一方で落葉樹では、予想とは異なりgmやCcは気温による明確なパターンを示さなかった。落葉樹では、低温で葉が薄くなりScが低下することでgmを低下させる効果と、Twが低下することでgmを増加させる効果が相殺された可能性がある。