| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-051  (Poster presentation)

オオバアサガラにおける成木と幼木の生理生態学的形質の比較【A】【O】
Ontogenetic difference in ecophysiological traits of the leaves and stems in Pterostyrax hispidus trees.【A】【O】

*山内理紗(東京大・日光植物園), 古館旦陽(東京大・日光植物園), 澤上航一郎(東京大・日光植物園), 渡辺綾子(東京大・院理), 種子田春彦(東京大・日光植物園)
*Risa YAMAUCHI(Nikko Botanical Garden), Asahi FURUDATE(Nikko Botanical Garden), Koichiro SAWAKAMI(Nikko Botanical Garden), Ayako WATANABE-TANEDA(Sci. Sch.,The Univ. of Tokyo), Haruhiko TANEDA(Nikko Botanical Garden)

木本植物では、成長に伴う生理生態学的形質の変化が報告されている。その多くは、隣接個体と競争し成木に被陰されて光資源の制限された環境下の幼木から、樹冠に達し直射光を受ける成木への変化である(Barton, 2023)。こうした変化の中には、光条件などの環境に応答して変化する形質と、成長により変化する個体発生上の制約を反映した形質が含まれることが予想される。私たちは個体発生的な制約で変化する形質を明らかにするために、光や土壌条件に変化の少ない開けた河原(栃木県日光市、標高約700 m)の環境に自生する遷移初期種であるオオバアサガラ(Pterostyrax hispidus)を材料とし、生殖成長に入った個体を成木、樹齢2, 3年の個体を幼木として生理生態学的形質を比較した。
測定の結果、最大光合成速度は成木7.56 µmol CO2・m-2・s-1、幼木4.30 µmol CO2・m-2・s-1であり成木で高かったが、気孔コンダクタンスはどちらも0.2 mmol H20・m-2・s-1程度で有意差がなかった。葉身長は成木で幼木の1.3倍、比葉面積(SLA)は幼木で成木の1.8倍大きかった。葉背軸面の毛密度にも顕著な差があり、成木で約600本・cm-2、幼木で約3 - 60本・cm-2であった。これは、水滴に対する接触角に反映され、成木では156°となり強い撥水性を示した。
幼木では、個葉サイズ、SLA、毛密度の傾向や最大光合成速度の値から、成木に比べて個葉に投資できる炭素や窒素が乏しいことが示唆される。そして、葉を薄く小さくし、面積当たりの窒素濃度を保つとともに、光合成速度に対し気孔コンダクタンスを高く保って葉内CO2濃度を上げることで、限られた資源を効率的に利用していることが推測された。こうした傾向は熱帯の森林でギャップ更新をする遷移初期種と同様であった(Ishida et al., 2005)。オオバアサガラの成木でみられた葉の高密度の毛と高い撥水性は、降雨後に速やかに光合成を回復させるための炭素投資と考えられる。これは利用できる資源に応じた効率的な光合成の実現を示唆する。


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