| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-052  (Poster presentation)

葉の通水性と機械的支持にはトレードオフがあるか?―樹木38種を用いた検証―【O】
Is there a trade-off between water conductance and mechanical support in tree leaves? — 38 tree species across diverse lineages —【O】

*佐々木陽依(京大・生態研), 河合清定(国際農研), 石田厚(京大・生態研), 才木真太朗(森林総研), 山尾僚(京大・生態研)
*Hiyori SASAKI(Kyoto Univ.), Kiyosada KAWAI(JIRCAS), Atsushi ISHIDA(Kyoto Univ.), Shin-Taro SAIKI(FFPRI), akira YAMAWO(Kyoto Univ.)

植物は進化の過程で葉を薄くすることで、葉重量あたりの光合成速度を向上してきた。薄い葉では高い光合成速度を維持するために葉肉への水の供給力を高める必要があり、葉全体の通水性を向上させてきた。その一方、薄い葉では機械的強度が低く、葉面を平らに維持することが難しくなり、受光効率が低下する。つまり、植物が葉を薄くする過程で、葉肉の通水性と機械的支持のトレードオフが課題となった可能性が考えられる。葉脈はことから、トレードオフの解消に機能していることが考えられる。本研究では、薄い葉の進化におけるトレードオフの解消に、葉の水輸送と機械的支持を担う組織である主要脈(一次脈と二次脈)の進化が関与したという仮説を検証した。
幅広い系統を含む広葉樹38種について、H2Oの気孔コンダクタンスを測定し、主要脈と、それ以外の細脈を含む葉肉(以下、葉肉)にわけて、通水性と機械的強度の指標として剛性をそれぞれ定量化した。さらに、葉の形態的形質として面積あたりの乾燥重量(LMA)、葉の厚さ、主要脈の長さを測定した。系統を考慮して形質間の関係性を種間で評価する回帰分析を行なった。
その結果、葉肉の剛性と葉肉の通水性との間に有意な相関はなかったが、葉肉の通水性と強く関係する気孔コンダクタンスは葉肉の剛性と負の相関があった。このような薄く支持力の低い葉では、葉重量あたりの主要脈の長さ(密度)が高くより多くの主要脈が存在していた。すなわち、主要脈の密度を高めることが薄く剛性の低い葉肉の支持機能を担保し、トレードオフの解消に機能したと考えられる。さらに、主要脈の通水性はLMAと負の相関がみられ、薄い葉の進化と共に葉肉への水の輸送機能も向上したことが示唆された。主要脈は支持機能と通水性という2つの側面から、光合成能力が高い薄い葉の進化に寄与したと考えられた。


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