| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-054 (Poster presentation)
樹木は光合成によって炭素を固定し、固定した炭素を利用して生命活動を行っている。固定した炭素は主に樹木の成長、防御、貯蔵、繁殖、呼吸に利用され、この中でも成長、防御、貯蔵への投資が多い。暖温帯林には常緑樹と落葉樹が共存し、常緑樹は同一の葉を一年中つけるのに対し、落葉樹は展葉から一年以内に落葉する。このような常緑樹と落葉樹の葉の利用期間(光合成が可能な期間)の違いにより、炭素の投資パターンの季節変化に差があると予想される。また、樹体内において、葉は光合成を行う器官であり、枝は葉の支持や葉と他器官との物質の輸送を行う器官である。このため、炭素の投資パターンは葉と枝で異なる可能性がある。本研究では、愛知県の暖温帯林に生育する常緑樹4種と落葉樹5種について、当年葉、当年枝における炭素分配パターンの季節変化を調査した。
2023年8月から2024年8月にかけて、約2か月間隔で各種の個体から当年生シュートを採取した。シュート内の葉と枝において、成長の指標としては乾燥質量、防御の指標としては総フェノール濃度、縮合タンニン濃度、貯蔵の指標としては非構造性炭水化物濃度を測定した。
常緑樹では、葉と枝防御物質濃度は展葉開始時に最大となり、展葉が進むにつれて減少した。展葉初期の葉は柔らかく被食されやすいため、寿命の長い常緑樹の葉では、特に被食防御のために防御物質濃度を高くしている可能性がある。さらに、落葉樹では夏に枝の貯蔵糖類濃度が増加する傾向が見られた。枝に貯蔵した糖分を利用して春に展葉するため、落葉樹では夏ごろには翌年の開芽に向けて枝に糖類を貯蔵していたと考えられる。また、葉と枝では防御物質濃度と貯蔵物質濃度は同調して変化する傾向があった。このことから、これらの物質の葉における季節への応答パターンに枝の成分が同調している可能性が考えられる。