| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-055 (Poster presentation)
生態学、農学、地球化学など様々な分野で植生光合成モニタリングの必要性が高まっている。光合成による二酸化炭素吸収量(Gross Primary Production; GPP)を広域に推定する手法の一つに、人工衛星から地球の反射光スペクトルをモニタリングする衛星リモートセンシング法がある。特に太陽光によって誘起される植生のクロロフィル蛍光(Solar-Induced Fluorescence; SIF)は多くの研究によってその有用性が報告されている。クロロフィル蛍光とは、植物の葉緑体が、光を受けると放出する赤~遠赤色の光であり、その強度は光合成回路の状態を反映するため、SIFはGPPの新たな指標として、また植物の健康状態を広域にリアルタイムで把握できる可能性があると期待されている。しかし、クロロフィル蛍光は葉に吸収されたエネルギーがたどる3経路(光化学反応、熱放散、蛍光)のひとつであり、光化学反応の収率を正確に推定するには熱放散のパラメーターもリモートセンシング指標から推定する必要がある。一方で、生態系内には様々な植物種が存在し、季節にともなって葉の機能特性が変化する。そのため、植物群落レベルで観測されるSIFから光合成を推定するには、植物種や季節に順化した葉の蛍光と光合成と熱放散の特性を調べる必要がある。そこで本研究では、日本を代表する樹木10種を対象に、光合成、クロロフィル蛍光、熱放散と相関がある分光反射指数Photochemical Reflectance Index (PRI)の3つの経路に与える季節と種間差の影響を調べた。その結果、落葉樹は全ての季節を通じて熱放散とΔPRI(暗条件で補正したPRI)に相関関係が認められた。一方、常緑樹は熱放散とΔPRIに緩やかな相関関係が認められたものの、冬季の低いNPQが相関関係を低下させる主要因となっていた。同様に冬季の常緑樹は、SIFと蛍光収率の相関関係を低下させる要因となっていた。したがって、光合成速度の推定精度を上げるには、冬季の常緑樹で見られる恒常的NPQの影響を加味することが重要である。