| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-057  (Poster presentation)

ミズナラにおける樹体形成様式の種内変異とその適応的意義【O】
Intraspecific variation and adaptive significance in tree architecture of Quercus crispula【O】

*岡恵輔, 石田清(弘前大学)
*Keisuke OKA, Kiyoshi ISHIDA(Hirosaki Univ.)

落葉広葉樹であるミズナラは山地帯上部で一般に見られるが、一部の日本海側多雪山地の高標高域では、多雪や強風の影響で針葉樹林が成立せずに落葉低木林が形成される。このような高標高域の景観を特徴づけている樹種がミズナラの変種とされるミヤマナラである。両変種については、葉のサイズなどの形態の差異に関する研究は行われているが、シュート形質やそのアロメトリ-に見られる違いとその適応的意義については明らかにされていない。本研究では、異なる環境に生育するミズナラ、ミヤマナラの当年生シュートを用いて、光環境と積雪環境への適応という視点から、葉形質や樹体形成様式に見られる変異とその適応的意義を明らかにすることを目的として分析を行った。
分析の結果、ミズナラでは様々な形質で光環境に対する可塑性が見られ、光環境に応じて、機能的に分化したシュート形質を持っていることが示唆された。一方、ミヤマナラの
シュート形質についても機能的な分化が見られたが、可塑性は小さかった。また、多雪環境への適応に関わるシュート形質について、茎の柔軟性に関わる直径と長さの関係を分析した結果、ミヤマナラの方が茎が細かった。茎の直径と長さのアロメトリーにも変種間差が見られ、ミヤマナラの方がシュートの成長につれてより細長くなることが明らかとなった。これらの結果から、ミズナラは樹冠内や森林内の空間的変異が大きい光環境への適応として、機能的に分化したシュートを持つことが示唆された。一方、ミヤマナラはミズナラに比べてシュートの機能的な分化の程度が小さく、樹冠内で光環境があまり変わらないことが反映されている可能性がある。積雪環境への適応は、より多雪な環境に生育するミヤマナラで生じていると考えられる。ミヤマナラはミズナラよりも、たわみやすい茎を持つことで、多雪環境で匍匐型の樹形をとり、雪圧による幹折れを防ぐことができると考えられる。


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