| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-058  (Poster presentation)

マダガスカル北西部季節乾燥林における樹皮形質の種間変異と乾燥適応との関連【O】
Interspecific variation in bark traits and their relation to drought adaptation in seasonally dry forest in northwestern Madagascar【O】

*岡本鮎樹, 藤本悠太郎, 黒川紘子, 北島薫(京都大学)
*Ayuki OKAMOTO, Yutaro FUJIMOTO, Hiroko KUROKAWA, Kaoru KITAJIMA(Kyoto Univ.)

樹皮は維管束形成層よりも外側の組織であり、構造の違いから内樹皮と外樹皮に分類される。それぞれが多様な機能を有し、樹木の火災や乾燥への適応に関連することが知られる。マダガスカルをはじめとする世界の季節乾燥林は人為的攪乱や、気候変動による乾燥の激化が進んでおり、樹皮形質の種間変異やその意義を解明することは、樹木の適応戦略や季節乾燥林の生態系を理解し、その保全を行う上で不可欠である。本研究ではマダガスカル北西部に位置し、年間半年以上の乾季が存在するアンカラファンツィカ国立公園において、34種の優占種を対象にさまざまな樹皮形質の測定を行い、種間変異や形質間の関係を明らかにし、それらの乾燥適応との関係を考察することを目的とした。測定した全172個体の間で総樹皮厚と胸高直径の間に正の相関が見られたが、種の効果を加えたモデルを構築すると説明力が 53%上昇し、総樹皮厚には大きな種間差があることが示された。また、胸高直径10 cmにおいて、内樹皮厚が外樹皮厚よりも大きい種は9割を超え、総樹皮厚は外樹皮厚よりも内樹皮厚によって強く説明されることが示された。総樹皮の含水率は内樹皮厚と正に相関したが、外樹皮厚との相関関係は見られなかった。また、外樹皮の内側に樹皮光合成を行う緑の層を持つ種は、持たない種に比べて外樹皮厚が有意に小さかった。これらの樹皮厚に関する傾向から、厚い内樹皮は水分貯蔵能力を向上させること、そして薄い外樹皮は乾季の水利用効率を上げる機能である樹皮光合成を効果的に行うことに関連すると示唆された。さらに、乾季に葉を持たない早期落葉性の種は乾季に入ってもしばらくは葉を維持する種や常緑の種に比べて内樹皮厚が有意に大きく、樹皮の含水率が高く、緑の層を持つ割合が高かった。このことから、葉のフェノロジーと樹皮特性の間に関係性があると考察される。


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