| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-059 (Poster presentation)
ササは常緑であり、落葉高木が着葉していない春・秋の明るい光を利用することができる。また、地下茎などを通じてラメット間で同化産物や栄養塩類、水などをやりとりすることが できるクローナル植物であるため、資源の分布が不均一な林床環境において有効に資源を 活用できる。このように、ササは落葉樹上層木と資源をめぐる競争相手になり得る。多雪山地である青森県八甲田山には様々な標高・地形(山腹斜面と盆地)にブナ林が存在し、林床にはチシマザサが生育している。森林動態の評価や予測において、樹木とササの資源利用をめぐる種間関係や地下部動態の理解は重要であるが、知見は地域や樹種が限られている。また、標高地形を考慮した上層木と林床植生の資源利用、地下部動態の多様性に関する研究事例はない。本研究では、八甲田山のチシマザサ型林床のブナ林を対象に、ブナとチシマザサの細根バイオマス、窒素利用に関する特徴と、それらに標高地形が与える影響を明らかにすることを目的とし、野外調査を行った。
調査地のブナ細根の平均バイオマスは277-362g/m2であり、チシマザサ細根の平均バイオマスは42-66g/m2であった。ブナ細根は全細根バイオマスの79-83%を占めており、チシマザサ細根は12-16%を占めていた。チシマザサ細根バイオマスは山腹斜面よりも盆地で大きかった。また、二種の細根は10-20cmの深度において、山腹斜面と盆地の間に有意な差が認められ、チシマザサ細根バイオマスと二種の細根深度分布には地形間差があることが示唆された。低標高斜面、中標高斜面、中標高盆地のチシマザサは同地点のブナよりも葉の窒素含有率が低く、高標高斜面のチシマザサは同地点のブナよりも窒素含有率が高かった。このことから、生育期間が短い高標高でもチシマザサは十分に窒素を獲得し、環境に適した葉形質をもつこと、そして窒素利用をめぐる二種の関係に標高間差があることが示唆された。