| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-060 (Poster presentation)
樹形は個体の生産性を決定づける一要因であるため、樹形形成を制御する内的、外的要因を明らかにすることは重要である。樹形形成には力学的制約があると考えられている。雪は樹木に力学的負荷を加えるため、多雪環境では樹形形成への力学的制約が強くなることが考えられるが、その関係は分かっていない。よって本研究では、多雪環境下の樹形と幹の力学特性の関係を明らかにすることを目的とした。
樹高5.5m以下のブナ(Fc)、マルバマンサク(Hj)、オオカメノキ(Vf)を対象に樹高と樹冠偏心幅(樹冠の重心から幹の根元までの水平距離)と力学特性として立木状態で幹の堅さを表す曲げ剛性を測定した。立木状態での曲げ剛性はひずみゲージを用いて、荷重したときのひずみ量とその荷重による応力の関係から測定した。曲げ剛性と断面二次モーメントから曲げ弾性係数を算出した。対象木は全て埋雪木である。融雪前には除雪を行い幹が埋雪している位置を測定した。埋雪状態と夏の状態での幹形状の違いを雪圧による幹たわみとした。幹を先細りした円柱の要素群だと仮定し、幹自重による曲げ応力は生材密度と幹直径の関係から推定した。
HjはFcとVfより幹が傾き、樹冠偏心幅が大きいため、自重による曲げ応力が大きかった。幹の曲げ弾性係数は自重の曲げ応力と正の相関関係があり、樹体支持の必要条件であることが明らかとなった。ほとんどの埋雪木は雪圧が大きすぎるが故に幹が地面に沿うように埋まるため、雪圧による幹たわみは幹の曲げ剛性ではなく、樹高に依存していた。本研究では樹形により自重による曲げ応力と雪圧による幹たわみが変化することが明らかとなった。そして、幹の曲げ弾性係数は樹体支持の必要条件であると考えられた。しかし、雪圧による幹たわみは曲げ剛性に依存しておらず、別の力学的特性が雪圧耐性を決定づけることが示唆された。発表では曲げ弾性係数を変化させる解剖特性との関係についても議論する。