| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-061  (Poster presentation)

風と水を味方につけた屋久島のサツキ【O】
Rhododendron indicum of Yakushima Island have taken wind and water as their allies.【O】

*崎尾均(新潟大学), 阿部晴恵(新潟大学), 川西基博(鹿児島大学)
*Hitoshi SAKIO(Niigata University), Harue ABE(Niigata University), Motohiro KAWANISHI(Kagoshima University)

サツキ(Rhododendron indicum)はツツジ科の常緑低木で関東以西,中国地方,九州地方(四国は除く)に分布し,河岸の岩盤上に分布する渓流植物として知られている.その最も大きな自生地の一つである屋久島では,これまでの調査で渓流沿いだけではなく,多くの山頂にも分布していることが明らかになってきた.渓流では度重なる洪水が他の樹木の侵入を妨げることで光環境が確保され岩盤や大礫の間がサツキの生息地になっている.しかし,山頂に分布するサツキの生息環境は明らかになっていないため、屋久島全域の山頂の踏査を行った.屋久島は洋上のアルプスと言われるように,島の中心部にある標高1936mの九州最高峰の宮之浦岳をはじめとする奥岳と,それを取り囲むように分布する標高が低い前岳と呼ばれる山々から形成されている.今回,奥岳4座と前岳24座の合計28座の山頂において,サツキの分布の有無と、その環境要因として標高、光環境(林冠木の有無)、および土壌について調査した.その結果,奥岳と言われる宮之浦岳,永田岳,黒味岳など(標高1831-1936 m)ではサツキを確認できなかった.それより低い前岳(標高210-1589 m)では,多くの山頂でサツキの分布が確認され,標高410 mのひづくし山から1545 mの花折岳まで分布していた.サツキの分布している山頂は,空が開けて明るく,割れ目のある花崗岩で形成され,高木はほとんど分布していなかった.一方で,山頂が高木や低木に覆われている国割岳や楠川前岳などではサツキは確認できなかった.屋久島にはしばしば台風が襲来し山頂は強風にさらされる.また,冬季は北西の季節風が卓越している.これらの強風が前岳におけるサツキの生息環境を形成していると考えられる.奥岳にサツキが分布していない理由は明らかではないが,強風による強度の乾燥や低温が影響している可能性が考えられる.


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