| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-062  (Poster presentation)

スズタケ実生の成長とそれに影響する外的因子:有性繁殖後6年間の調査に基づく解析【O】
Growth of Sasa borealis seedlings and external factors affecting it: analyses based on a 6-year study following sexual reproduction【O】

*鈴木華実(京都大学), 梶村恒(名古屋大学)
*Hanami SUZUKI(Kyoto Univ.), Hisashi KAJIMURA(Nagoya Univ.)

 日本の森林において、ササ類は林床に繁茂する代表的な下層植生である。林床の光環境を悪化させて他の植物の更新を阻害する一方、その被覆は小動物が身を隠しながら活動する場所として機能するなど、生態系に与える影響の大きい存在である。ササ類は、種によって異なる数十年から120年の周期をもって、地域内で一斉に有性繁殖(開花・結実)した後に枯死し、生産された種子が発芽して世代交代する。愛知県北東部では2017年にスズタケの有性繁殖が確認され、演者らは同地域に調査区を設定し、実生の発生から生死、成長を追跡した。本発表では、その個体数や形態に関して、有性繁殖後6年間の知見を示すと共に、食害や種子の埋没に対する実生の応答に着目して考察する。
 結実から2年後の2019年、実生が初夏~秋期に大発生し、調査地内の実生個体数は最多となった。しかし、当年の冬期から早春にかけて、哺乳類による食害で減少した。これは翌年 (2020年) も同じだったが、その後はほとんど生じなかった。また、何らかの原因による黄変が、2022年の秋をピークに毎年起こり、積算すると最多の死亡要因であった。実生の成長は遅く、地上高は4年生でも平均11 cm程度だった。稈数や葉数は個体差が大きかった。外的因子による実生への影響として、食害後も成長した個体が矮小化していた。このため、採食する哺乳類の有無が実生の地上高に差をもたらしていた。また、稈への食害によって稈の伸長量は少なく、稈数や葉数も増加しないが、葉の部分的な食害によって稈数は増加する影響が明示された (GLM解析)。つまり、実生の補償成長における可塑性が見出された。さらに、種子の位置が地中深い実生ほど稈は長く、結果的に地上高では深さによる差は生じていないことが明らかになった。一方、深い実生ほど稈数が少なくなる傾向にあった。これらの結果から、実生の形態デザイン (稈の長さと数) におけるトレードオフが示唆された。


日本生態学会