| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-065 (Poster presentation)
近年、草原の管理放棄による森林化や、土壌の富栄養化や酸性化などの増加により、急速に半自然草原の減少や環境劣化が進行し、草原性植物の多様性が急速に減少している。世界的な半自然草原の減少・環境劣化に伴い、著しく個体数が減少し、絶滅の危機に瀕している植物種(絶滅危惧種)が多く存在する一方で、顕著な減少のみられない植物種(低懸念種)がいる。また、多くの絶滅危惧種がまとまって生育する半自然草地の存在も知られている。ここから、「絶滅危惧種は類似した管理への応答性や環境選好性をもつため、分布が類似する」という仮説を立てた。本研究では、年1回の火入れのみで管理される半自然草原(火入れ草原)のみを調査し、管理の違いの効果を除いたうえで、多くの植物種の共起分布パタンおよび植生・土壌環境の選好性を、多種同時分布推定モデル(joint species distribution model, JSDM)を用いて評価した。日本各地の火入れ草原7か所で、植生調査・環境要因調査を行い、1)絶滅危惧種の分布パタンは類似するのか、2)絶滅危惧種同士は似た環境選好性をもち、低懸念種の環境選好性と異なるのか、検証した。仮説通り、絶滅危惧種は共通して「丈の低い植生、弱酸性・P制限下の土壌への選好性」をもつことで分布パタンは類似する一方で、「高茎植生や強酸性、Pの豊富な土壌」を好む低懸念種がみられた。しかし、地域的な絶滅危惧種には国の絶滅危惧種と異なる環境選好性をもつ種がみられ、絶滅危惧種と類似した選好性をもつ低懸念種が存在するなど、仮説は完全には支持されなかった。ここから、管理放棄による植生の高茎化や富栄養化・酸性化は、絶滅危惧種に不適な環境を生み、その個体数減少を引き起こす一方で、低懸念種はこのような環境への選好性をもつことで、個体数を維持・増加させていることが示唆された。