| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-066 (Poster presentation)
過去に起きた植生変化の特徴と気候変動の関係を明らかにすることは、現在から将来にわたる気候変動に対する植生の応答を予測する上で重要な知見となる。湖沼堆積物に残る花粉化石は過去に起きた植生変化を復元する上で有効な試料である。ただし、通常の湖沼堆積物を用いた分析では年代の解像度が粗く、短期間に発生する極端な気候変動に対する植生の応答を捉えることが困難であった。しかし、「年縞」をつくる湖沼堆積物を用いて分析することで、時間的に高解像度の植生変化と気候の復元が可能になる。本研究では、福井県水月湖の年縞堆積物から得られた花粉化石の組成データを分析することで、過去に起きた陸域植生の時系列変化の特徴を明らかにする。
今回分析した花粉化石データの期間は約17,000〜11,000年前であり、この期間に約10年刻みで年代と花粉化石の組成(植物分類群ごとのカウント数)が記録されている。このうち、対象期間を通して出現確率が10%以上の60科属を対象に、時系列クラスタリングによって分類群ごとの時系列変化パターンを分析した。その結果、対象期間中に単調減少する分類群(カバノキ属、モミ属、ヨモギ属など)、逆に対象期間中に概ね増加し続ける分類群(クリ・シイ属、スギ属、エノキ・ムクノキ属など)、対象期間に一旦増加するもののその後減少する分類群(ブナ属(ブナ型)、サワグルミ属、ニレ・ケヤキ属など)などのクラスターが見られた。それぞれのクラスターはしばしば気候や撹乱に対する選好性を共有しており、対象期間中に優占する分類群が冷温帯で見られる分類群から温帯で見られる分類群へと推移していた。対象期間の中期には、渓流域などで見られる撹乱に依存的な分類群が一時的に増加していた。今後は、これらの植生変化パターンに対して、極端な気候変動が与える影響を評価したい。