| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-068 (Poster presentation)
植物遺体由来の泥炭が堆積する湿原では、地形図に表れない微地形が発達し、小凸地と小凹地の連続体などの特徴的なパターンが見られる。微地形は地下水の高さや変動といった水文環境に影響するため、植生を規定する重要な要因となりうる。本研究では、ドローンから取得できる高解像度の地形情報を活用して、湿原の微地形と植生の対応状況や植生タイプごとの微地形環境を3次元的に検証した。
調査地の浮島湿原は北海道北部上川町に位置する標高約870 m、面積約15 haの山地高層湿原である。2022〜23年の7月に植生調査を64区で実施し、クラスター分析によってイボミズゴケ群落、ホロムイソウ・ヤチスゲ群落、ヨシ群落、攪乱地群落などの9つの植生タイプに区分した。2024年の夏期に湿原を踏査して1,273地点で植生タイプを記録し、位置情報をGNSS測量で得た。同年6月に取得したドローン撮像から地上解像度10 cmの数値地形モデルを作成し、微地形に関わる18種類の変数を全域で算出した。1,273地点のデータを用い、微地形変数から植生タイプを予測するランダムフォレストモデルを構築した。その際、他と強く相関する変数や精度向上への寄与が小さい変数は除外した。モデルの評価指標として予測精度や変数重要度を求め、植生タイプ間で変数の値を比較した。
予測精度は全体では67%で、個々の植生タイプでは最低で34%(攪乱地群落)、最高で89%(ヨシ群落)と差が大きかった。採用された変数は、重要度の高い順に小凹地と池溏からの距離、標高、周囲との比高、地形起伏度、林縁からの距離、斜度、湿潤度指数であった。重要度が上位の変数では多くの植生タイプ間で有意差が認められた。モデルから予測された植生図では、異なるミズゴケ類の標高に応じた棲み分けや、ヨシ群落や低木群落の局所的な分布などが再現された。以上の結果は、植生ごとに微地形との関連度合が異なることや、適地となる微地形条件に差異や重複があることを示唆する。