| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-069 (Poster presentation)
萌芽は攪乱に対する植物の生存戦略の一つである。比較的安定したブナ林においても,ギャップ形成や冬季の積雪に伴う攪乱に対する萌芽は樹木の重要な生活史戦略である。しかし,萌芽能力の個体差や種間差を決定する要因については議論が続いている。本研究ではブナ林構成樹種を対象に,光環境や攪乱を受ける季節が萌芽能力に与える影響を解明することを目的とした。加えて,葉や材の機能形質が萌芽能力に与える影響も明らかにする。
調査は新潟県魚沼市に位置する90年生のブナ二次林で行った。光環境の異なる3林分(林冠閉鎖林分,高木層の間伐から3〜5年経過林分,間伐直後の林分)を調査区とした。低木層を構成する主要な8樹種,計317個体を対象とし,2023年12月と2024年6月に幹直径を計測後に根元から伐採した。伐採時に葉や材を採取し,機能形質(LDMC(葉の乾燥重量比)など)を計測した。2024年10月に個体ごとの萌芽の発生本数,根元直径,高さを計測した。萌芽の有無,本数,根元合計断面積,最大高を応答変数とし,幹直径より求めた株断面積,光環境(林分),伐採時期(12月・6月)を説明変数としたGLMMおよび株断面積,機能形質を説明変数としたGLMMをそれぞれ構築した。いずれも樹種を切片,説明変数に対するランダム効果とした。
根元合計断面積は間伐直後の林分(最も明るい林分)および12月伐採で有意に高かった。最大高は12月伐採で有意に高かった。萌芽の有無と本数に対する光環境と伐採時期の有意な影響は見られなかった。機能形質については,萌芽の根元合計断面積に対してLDMCや葉の厚さの有意な正の影響が見られ,高いLDMCなどの陽葉形質を持つ個体ほど萌芽再生量が多いことが示された。
よって,ブナ林構成樹種において光環境や攪乱季節,葉の形質は萌芽再生量を決定する要因であることが示された。発表当日は樹種別の解析結果も示す予定である。