| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-070 (Poster presentation)
カシノナガキクイムシ(Platypus quercivorus(Murayama,))の穿入により引き起こされるブナ科樹木萎凋病による樹木の集団枯損は、「ナラ枯れ」と呼ばれている樹木病の一種である。2019年頃より東京都多摩地域でも発生している。鎌田(2002)が論じているカシノナガキクイムシの穿入を受けるが枯死に至らないケースがあり、その割合は地域によって異なるという点を踏まえ、ブナ科樹木を対象とした樹木調査を実施し、穿入を受けた樹木が枯損する林内の地形条件を考察した。調査は八王子市の片倉城跡公園、清水入緑地、長池公園の計3カ所で、代償植生の優占種であるクヌギ(Quercus acutissima Carruth.)、コナラ(Q. serrata Murray)、自然植生の優占種とされるシラカシ(Q. myrsinifolia Blume)の3種を対象に行った。合計1,854本の樹木調査を行い、各樹木の状態と地形条件の相関を考察した。樹木調査の期間は一般にナラ枯れ被害が終息するとされている発生より約5年(小林・萩田 2000)にあたる2024年の8月から11月である。
この調査において、対象の樹木のうち約7割の914本に穿孔が認められた。一方で枯損に至っているものは穿孔が認められた樹木のうち約5割の481本に留まった。
樹木調査は園内の調査可能区域内の全樹木の位置を計測すると同時にブナ科樹木の同定を行った。また、ブナ科樹木に付着する菌類、コケ類、フラス痕、樹液、穿孔の有無と枯損率を目測にて記録した。そして、樹木調査にて得た位置データ並びにブナ科樹木の状態をArcGISProにて地図上にプロットし、国土地理院のDEMデータより傾斜度と傾斜方位を求め樹木データとオーバーレイさせた。
片倉城跡公園と長池公園はクヌギとコナラが優占種となる二次林であるのに対し、清水入緑地はシラカシが優占種であった。全公園に共通し、枯損が多く見られたコナラでは、傾斜度では概ね10°前後に被害が集中し、斜面方位では北から東側斜面に被害が集中していることがわかった。