| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-071 (Poster presentation)
山岳湿原は、高い炭素隔離機能やユニークな生物多様性を有している。これらは人間社会に多様な生態系サービスを提供しているが、木本侵入によって湿原面積は著しい減少傾向にあり、生態系機能の変化や喪失が懸念される。乾燥地や草原における木本侵入の要因と、侵入に伴う在来群集の変化は多数報告されている一方、山岳湿原において(1)木本種がどのような地点に侵入しているか(2)在来の湿性草本群集が、侵入の勾配に沿ってどのように変化するか を調査した研究は極めて少ない。本研究の目的は、上記2点を局所スケールで明らかにすることである。
調査地は青森県八甲田山系の湿原であり、湿原の辺縁部から中心部に向かう形で、2m×10mのトランセクト(1ラインにつき5プロット)を56本設置した。各プロットで、観測された種の被度と、土壌水分・pHなど6つの環境データを取得した。また、一般化加法モデル(GAM)を用いて、それぞれの目的に対応する形で(1)環境が木本侵入に与える影響(2)木本侵入が在来群集の種多様性・形質に与える影響を検証した。
結果、木本種は辺縁部から顕著に侵入しており、積雪の減少もまた、侵入を促進させる要因であった。また、在来群集の種数・Shannon-Wienerの多様度指数は木本侵入に伴って著しく減少し、他の環境要因と比較しても、減少をより強く駆動させる要因であった。さらに、群集の葉高・葉乾物含有量(LDMC)も、木本被度の増加に伴って有意に増加しており、木本との生存競争にあたって、光を獲得しやすい高葉高・乾燥耐性のある高LDMCの群集が選択されたことを示唆した。これらの結果により、木本侵入は主に辺縁部からの距離や積雪によって規定され、在来の湿性草本の多様性や群集の一部形質を変化させることが明らかとなった。