| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-073  (Poster presentation)

阿蘇における半自然草地の再生と管理放棄が大蛾類群集に及ぼす影響【A】【O】
Effects of restoration and long-term abandonment of seminatural grassland on macromoth communities in Aso, Kumamoto.【A】【O】

*山口滉太(東京農業大学), 坂上翼(東京農業大学), 増井太樹(阿蘇グリーンストック), 今井伸夫(東京農業大学)
*Kota YAMAGUCHI(Tokyo Univ. of Agriculture), Tsubasa SAKAGAMI(Tokyo Univ. of Agriculture), Taiki MASUI(Aso Green Stock), Nobuo IMAI(Tokyo Univ. of Agriculture)

 半自然草地は野焼きや採草などの人為攪乱によって維持されている草地で、高い生物多様性を有する。しかし近年、温帯域の半自然草地は、管理放棄により面積が急減し生物多様性が低下している。一方、管理放棄され植生遷移が進んだ場所において管理を再導入し、多様性の低下した草地性生物の再導入および草地生態系の復元を目指す動きもある。大蛾類は環境指標性が高く、分類学的によく知られている鱗翅目の中でも草地・森林の両環境で強力な環境指標となることが知られている。そこで本研究では、半自然草地と草地放棄後に植生遷移が進んだ場所が混在する熊本県阿蘇地域を対象とし、半自然草地の再生と管理放棄が大蛾類の群集構造に及ぼす影響を調べた。
 多様性回復を目指した野焼き+採草草地、野焼き草地、放棄草地、発達段階の異なる二次林など10の植生タイプ×4-8カ所の計52カ所において、6、7、8月の新月時にライトトラップを1つ/1カ所、12時間設置して大蛾類を採取した。その結果、3308個体16科502種、うちレッドリスト種が37種得られた。草地再生区は他の草地と比べて、多様度指数は変わらなかったが、希少種の出現頻度がやや高かった。草地が放棄されると、希少種数は低下したが、多様度指数は林冠閉鎖直後に低下したものの、放棄後約50年かけて緩やかに増加しその後安定した。ただし、種組成は遷移が進むにつれて変化し続けた。このように、草地生態系の復元は、大蛾類の種多様性増加には寄与しないものの草地性希少種を保全するうえで重要であることが分かった。また、草地を放棄すると種多様性は比較的早く原生林と同等レベルにまで回復するが、種組成の回復には1世紀近い時間を要することがわかった。


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