| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-076 (Poster presentation)
気候変動や人間活動は森林構造・組成を変化させる。将来の気候変動や人間活動に対して森林がどのように変化するか予測する際、 過去の状態復元は貴重な情報となる。しかし、数十から100年前のデータセットの多くは現在で一般的な毎木調査データと形式が異なるため、正確な比較は難しい。そこで本研究では1920-30年代に四国・九州の国有天然林で行われた毎木調査データを利用し、当時の森林構造・組成の再現、および現在との比較を行った。
本研究で用いたデータは昭和初期に北海道を除く全国の国有天然林を対象に行われた調査記録の一部である。これらは全て手書きであったため、まずこれらをデジタル化した。その結果合計約400ha, 72万個体にもなる大規模なデータセットが完成した。このデータセットと林野庁が行った森林生態系多様性基礎調査の結果を地上部バイオマス(AGB)、個体サイズ構造、種組成に着目して比較した。
現在と過去の森林の間にAGBの有意な差は見られなかった。一方で過去の森林における大径木(DBH≧50cm)の個体密度は四国、九州でそれぞれ現在の約2、3倍であった。種組成については、過去の森林ではイスノキ・ウラジロガシといった特徴的な常緑広葉樹が優占していた一方で、現在の森林ではコナラやミズナラ、ヤマザクラといった人為の影響が見られる森林に生育する種の優占度が高かった。
以上の結果から現在と過去の森林にAGBに大きな差異は見られなかったが、森林構造・組成は約100年の間に大きく変化していた。このような傾向は人為撹乱の影響を示唆する先行研究でも見られ、四国・九州地方においても同様に人為撹乱の影響を強く受けたことを示唆している。
環境要因の影響は今後解析する予定である。