| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-078 (Poster presentation)
香川県では2019年度よりナラ枯れによるブナ科樹木の集団枯死が報告され、2023年度までの被害材積は4500m3にのぼる。ナラ枯れで集団枯死するブナ科樹木には林冠構成木が含まれるため、森林景観を大きく変化させうる。また、大きな落枝も生じるため、林床環境の変化が見込まれるほか、公園など付近で人の利用がある林分で被害が発生した場合は枯死木の早期の除去が求められる。このためナラ枯れの被害拡大の特徴や集団枯死発生後の植生の変遷を追跡する必要があるが、蓄積されている知見の多くが草食動物による林床植生の被食圧が高い状況下のもので、ナラ枯れそのものが森林景観や植生遷移に与える影響の評価は進んでいない。本発表では、2022年度からナラ枯れ被害が発生している香川県下の里山林において、2023年度の被害の状況と、枯死木の早期除去を目的とした皆伐の状況を報告する。調査対象地は香川県高松市の森林公園ドングリランドの西向き斜面(調査面積2500m2)とした。木本植物が45種1712個体確認され、2022年度時点でコナラ優占林(胸高断面積合計30.49m2/ha)であった。調査地内にはブナ科樹木は5種確認され、2023年度までにカシノナガキクイムシ(以下カシナガ)の穿入を受けたのはコナラとアラカシであった。2023年度までにカシナガの穿入を受けたコナラのDBH(27.74±8.09cm: 平均値±標準偏差、以下同様)は、穿入を受けなかった個体(25.97±8.77cm)よりも大きい傾向がみられた。カシナガの穿入を受けたアラカシ(12.79±9.45cm)は、穿入を受けなかった個体(3.44±26.45cm)より有意に大きかった(Mann-Whittney U test, p=0.006)。2023年度にナラ枯れにより枯死した個体はすべてコナラであり、胸高断面積合計は6.14m2/haとコナラ全体の約20%を占めた。枯死木が園路に隣接する斜面下部に集中していたため、2024年2月に調査地の約200m2を含む約300m2が皆伐された。今後は調査地内のナラ枯れの拡大状況を記録するほか、皆伐範囲内の林床植生を調査する。