| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-081 (Poster presentation)
近年の放棄水田の増加傾向は、水田の多面的機能の低下と周辺の生態系への影響を及ぼしている。本研究では耕作放棄後の植生遷移・更新を検討することを目的に、放棄水田に成立するハンノキ二次林の群落組成と個体群構造を明らかにし、その初期遷移を検討した。 調査地は耕作放棄後およそ10~50年が経過した石川県金沢市・七尾市・中能登町の放棄水田 を対象とし、ハンノキが生育している100㎡の調査地を計20か所設定した。Braun-Blanquet法による植生調査と毎木調査により 下位群落と直径樹高階分布のタイプ分けを行った。加えて各調査地の最大直径個体の樹齢と放棄年数から、侵入までの期間と生長量の分析を行った。近隣住民には耕作時の状況について聞き取りを実施した。
調査の結果、谷津田・斜面下・棚田・山間湿地の地下水位が高い立地の調査地が多く、一部の調査地のみ湧水のある斜面から遠い乾燥した平地に存在していた 。下位群落は、乾性地のササ・セイタカアワダチソウ(A-Type)、適湿地のミゾソバ(B-Type)、過湿地のカサスゲ・ヨシ(C-Type)の3タイプに分類された。また林分構造は年数の経過とともに若齢林(後継木が存在し個体数が多い)、成熟林(後継木が存在し個体数が少ない)、老齢林(後継木が欠如し個体数がない)に分類された。A-Typeの林分 は、ハンノキの侵入・定着が速く若齢林の構造で、非湿地性の先駆樹種が混生していたことから、成熟林・老齢林に発達するまで林分を維持することは難しいと考えられた。一方B-Type・C-Typeは老齢林までの林分の持続性が確認されたが、後継木の生育状況が悪いため長期的な土壌的極相には至らないと考えられた。耕作当時には稲架木としてハンノキの生木を利用していた事例があり、これらによる種子供給が、初期定着の早さの要因となっていた可能性がある。