| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-082 (Poster presentation)
超塩基性岩(蛇紋岩)に由来する特殊土壌は含有元素種、含水量などの性状によって特徴付けられる。特殊土壌と一般土壌が隣接している場所では、各土壌に適応した植物種がすみ分けており、近縁種であれば遺伝子流動も生じうる。交雑個体は雑種崩壊によってF1でとどまる可能性がある一方で、交雑個体が維持されて親種に浸透性交雑が進むこともある。本研究は超塩基性岩環境とそれを取り巻く一般土壌に生育するスミレ2種の交雑に着目して、環境データを測定するとともに、遺伝解析と組み合わせることによって、種の維持機構、交雑様式、3者の植物の生育環境要因の違いを解明することを目的とした。調査地の北海道旭川市近文山には、アイヌタチツボスミレ(アイヌ)が生育する蛇紋岩地帯とオオタチツボスミレ(オオ)が分布する一般土壌の森林地帯がある。そしてその中間地帯には中間形態の推定交雑個体が現れる。3者各々の生育地で環境データ(PAR、土壌水分量、土壌温度)を半年間連続測定した。各5地点、合計15地点の土壌サンプルを採取し、イオン含有量を分析した。この2種および推定交雑個体から計475個体を採取し、MIG-seq法によりジェノタイピングを行い、STRUCTURE解析、NewHybrids等を行った。その結果:①親種と交雑個体の環境データに有意差が見られ、例えば土壌水分量ではオオ>アイヌ≈交雑個体の違いが確認された;②3者はそれぞれ異なる性質の土壌に生育していた;③アイヌとオオは各々の遺伝構造を維持していた;④推定交雑個体の90%はF1により構成されていた;⑤F1にはクローンと推定される個体が多数存在していた。これらの結果から、3者は土壌環境要因によって生育範囲が規定されることがわかった。また、交雑個体がF1にとどまることによって親種は独自の遺伝構造を維持しつつ、F1個体は主に地下茎による栄養繁殖を行っていると考察された。