| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-083  (Poster presentation)

ドローンLiDARによる樹冠構造解析を基にした光合成有効放射(PAR)時空間変動の再現【A】【O】
Simulation of spatiotemporal variation of photosynthetically active radiation (PAR) based on analysis of tree canopy structure with drone LiDAR【A】【O】

*仮屋園純平(東京大学), 小林秀樹(海洋研究開発機構), 熊谷朝臣(東京大学)
*Junpei KARIYAZONO(The University of Tokyo), Hideki KOBAYASHI(JAMSTEC), Tomo'omi KUMAGAI(The University of Tokyo)

レーザーを用いて物体の3次元構造を計測するLiDARは、森林の複雑な樹冠構造を可視化し、群落の光合成量を推定する上で不可欠な葉量分布や林内光環境の把握に活用できる。近年、LiDAR機器の効率化とドローン技術の発展により、ドローン搭載型LiDARが登場した。ドローンLiDARは、地上型LiDARでは困難だった景観スケールの計測を、航空機LiDAR よりも詳細かつ低コストで実現できる点で注目されている。本研究では、山梨県山中湖村に位置するブナ林を対象に、ドローンLiDARの林内光環境の再現性を検討した。具体的には、ドローンLiDAR計測で得られた3次元葉群構造データをもとに、光合成有効放射(PAR; 400 nm – 700 nm)の波長域で3次元放射伝達シミュレーションを実施した。推定されたPAR時空間変動は、林内に設置したPARセンサーとの良好な対応関係を示し(着葉期: R² = 0.46、落葉期: R² = 0.94)、本手法の有効性が確認された。また、PAR吸収量(APAR)の3次元空間分布の推定から、PAR吸収の大部分が樹冠上層で起きることが明らかとなった。さらに、葉面積あたりのPAR吸収量を基に、実際に光合成に利用される光量を算出したところ、指数関数的な光の減衰を仮定するLambert-Beer則と比較して14%低く見積もられた。つまり、Lambert-Beer則を用いた場合、対象林分の光合成量を過大推定してしまう可能性が示された。これらの結果は、ドローンLiDAR計測に基づく精緻な光環境シミュレーションが、従来のLambert-Beer則では表現しきれない樹冠内の複雑な光環境を定量評価できる可能性を示唆している。今後、ドローンLiDAR計測を森林の生態学的研究に積極的に導入していくことで、森林の光合成動態に関する理解が一層深まると期待される。


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