| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-084 (Poster presentation)
オリイオオコウモリPteropus dasymallus inopinatusは,沖縄島とその周辺島嶼に生息する.本研究では,性別や成長段階,繁殖状況が移動に与える影響の解明を目的とした.
本研究では,バイオロギング手法を用いて得たGPSデータから,各個体1日ごとの総移動距離と行動圏を算出し,性別と性成熟度で比較した.性成熟度は幼獣(メス2),亜成獣(メス7,オス6),成獣(メス12,オス15)に分け,成獣メスは妊娠(1),母親(8),その他(3)に分けた.調査は2022年3, 6, 9月,2023年6月,2024年5, 10月に琉球大学構内と周辺地域で実施し,計46個体のべ196日分のデータを取得した.
解析の結果,総移動距離と行動圏面積の平均値(±SD)はメスが19.7±7.1 kmおよび2.6±2.7 km²(N=95 days),オスは25.4±11.0 kmおよび11.0±22.3 km² (N=89)と,メスが移動距離と行動圏が小さい傾向があった.性成熟度別では,メスの幼獣は20.9±5.6 kmおよび2.9±1.2 km² (N=5),亜成獣は21.0±6.5 kmおよび2.9±3.0 km² (N=36),その他は17.4±10.9 kmおよび2.3±2.8 km² (N=10)となり,成獣は幼獣・亜成獣より移動距離と行動圏が小さい傾向があり,オスも同様だった.また,母親個体が19.4±6.6 kmおよび2.6±2.5 km² (N=40)と長い移動距離と広い行動圏を示した.
本結果から,メスは成長に伴い採餌移動パターンが変化すると示唆された.成獣は幼獣・亜成獣より安定した採餌木を確保し,移動を効率化している可能性が高い.また,母親個体は授乳期の高エネルギー需要を満たすため移動範囲を広げる必要があると推察される.さらに,メスはオスより移動距離と行動圏が小さい傾向があり,採餌や繁殖戦略の差異によると考えられる.