| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-085  (Poster presentation)

ブナ実生の葉と根の形質の光環境に対する応答および成長・生残への影響【A】【O】
Responses of leaf and root traits of Fagus crenata seedlings to light environment and their effects on growth and survival【A】【O】

*手嶋春音, 柴田嶺(新潟大学)
*Harune TESHIMA, Rei SHIBATA(Niigata Univ.)

植物の葉などの機能形質は光環境に対する可塑性を持つ。林床に生育する樹木の実生は林冠ギャップ形成に伴う光環境の急激な変化に対して,葉形質を変化させることで順応する。また,根形質も光環境に対する可塑性を持つと考えられるが,その変化について調べられた事例が少ない。遷移後期種で一斉展葉型であるブナの当年生実生は,葉の成熟後の光環境の変化に対しては葉の厚さが変化しなかったことが知られている。本研究ではブナの二年生実生を対象に,1年目(冬芽形成時)と2年目(展葉後)の光環境が葉・材・根の形質に与える影響を明らかにすること,そして各形質が生存率や成長量に与える影響を明らかにすることを目的とした。
調査は新潟県魚沼市大白川に位置する90年生のブナ二次林で行った。林冠が閉鎖した暗林分,高木層が間伐された明林分,2023年(1年目)の秋に高木層が間伐された光環境変化林分を調査対象とした。2024年6月にブナ二年生実生を計378個体採取し,機能形質としてSLA(比葉面積)などを計測した。解析にはGLMMを用い,目的変数を各機能形質とし,説明変数を1年目と2年目の光環境としたモデルと,目的変数を生存率または成長量とし,説明変数を機能形質としたモデルを構築した。
葉の物理的強度,葉の厚さ,LDMC(葉乾物含量),SLAは1年目および2年目の光環境のいずれも有意な効果がみられ,葉形質は光環境に対する可塑性は大きいが冬芽形成時の光環境の影響も受けることが示唆された。根分岐頻度は1年目の光環境のみ有意な正の効果がみられ,SRL(比根長)と根組織密度は光環境の有意な効果はみられなかったことから,根形質は光環境への可塑性は小さいと考えられた。生存率には葉の厚さ,葉の物理的強度,SLA,LDMC,材密度の有意な効果がみられ,成長量には葉面積,SLA,根分岐頻度の有意な正の効果がみられた。以上から,各形質の光環境への可塑性の違いが生育状況にも影響することが示唆された。


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