| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-087 (Poster presentation)
温暖化により、各種の生物は最適な温度環境を追って高緯度や高標高へ移動している。こうした生息適地のシフトに伴い、各地の生態系ではthermophilization、すなわち「生物群集を構成する各種の温度ニッチの平均値の時間変化」が予想される。Thermophilizationは、温暖化に対する群集レベルの応答を評価するうえで重要であるにも関わらず、その定量化は特に国内において未だ限定的である。本研究では樹木群集を対象に、全国スケールでthermophilizationの値を計算した。森林生態系多様性基礎調査の毎木データのうち、2009~2018年(第3期と第4期)のデータを使用した。各プロットにおける各樹種の在・不在を応答変数、過去30年間の年平均気温を説明変数とした回帰モデルによって、各樹種の最適気温(DTopt)を推定した。DToptのプロット平均値を時点ごと(第3期と第4期)に計算し、その差分から各樹木群集のthermophilization値を求めた。DToptの推定の結果、対象とした237樹種のうちの96.2%にあたる228樹種で、年平均気温が出現率に有意な影響を与えていた。Thermophilization(DToptのプロット平均値の時間変化)は、年あたり0.0046℃の速度で進行していた。Thermophilizationの値と環境(降水量や斜面方位)や林分構造(優占樹種など)との間には、相関はみられなかった。本研究で推定されたthermophilization値は、過去約40年における全国の気温変化の平均値よりも低かった。このことから、国内の森林では温暖化による樹木の分布シフトが生じているものの、その速度は実際の気温の上昇には追い付いておらず、樹木組成と気温のミスマッチ(気候負債)が蓄積していると考えられた。こうしたミスマッチは、一次生産性などの生態系機能に影響する可能性が考えられるため、継続的なモニタリングが必要である。