| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-091  (Poster presentation)

森林の持続可能性に関する微分幾何学的考察【A】【O】
A consideration of the sustainability of forests by differential geometry【A】【O】

*清水瑛太, 藤本高明(鳥取大学)
*Eita SHIMIZU, Takaaki FUJIMOTO(Tottori Univ.)

 地球温暖化に伴う環境破壊や化石燃料の枯渇に対する世界的な懸念を背景に、近年、我が国において持続可能な森林管理に対する関心が高まっている。循環型林業において、木材は再生可能な資源という位置づけにあるが、実際のところ樹木は不可逆的(非対称)な成長プロセスをたどるため(Fujimoto, 2022)、厳密な意味でのサイクルは成り立たない。
 とはいえ、森林は完全にランダムに発展するわけではなく、そこには何らかの不変性(対称性)が関与しているはずである。Noetherの定理は、系の対称性に対応する保存量の存在を保証しており、これに基づいて森林の対称性を抽出することができると考えた。
 森林遷移は複数の樹木の成長のまとまりであり、樹木が年々形成する木部の状態は、複数の性質が相互に関連しながら複雑に変化する。この成長過程は、各性質を軸とする空間において時間をパラメータとする点の軌跡として認識することができ、さらに各個体の軌跡の集合として曲面が形成される。この曲面は複数の樹木の複雑な時間変化に関する情報を包括的に含んでおり、森林の成長過程と同等であるとみなすことができる(Fujimoto, 2024)。
 微分幾何学において保存量は完全形式と対応し、曲面のde Rhamコホモロジーは、閉形式の完全形式からのズレを数によって検出する。よって、コホモロジー類の元である特性類を計算することで、曲面の幾何学的な情報を通じて森林の対称性を定量的に評価する事ができると考えた。本発表では森林の成長プロセス(曲面)の中により多くの保存量が存在するとき、その森林はより高い持続可能性(対称性)を有すると仮定し、人工林と天然林で比較した。
 解析の結果、特性類として採用したPf(Ω)は成長期間全般に渡って天然林のほうが人工林よりも小さな値で推移した。この結果は、天然林の成長プロセスにおいて、人工林よりも多くの保存量が存在し、人工林よりも天然林のほうがより高い持続可能性を有することを示している。


日本生態学会