| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-094 (Poster presentation)
土壌病原菌や植食者による同種密度に依存した樹木実生の死亡は広く検出されている。一方、温帯林の優占種では種子散布域が隣接同種個体間で重複し、実生に最も近い同種林冠木が必ずしも母樹ではない可能性が高い。この場合、病原菌による被害率は実生の遺伝子型に依存することが示唆され、実生の死亡には周囲の同種個体との血縁度が関与する可能性がある。そこで本研究では、当年生ブナ実生の生死と、実生周辺の同種林冠木と実生との血縁度を解析し、血縁度が高い場合に死亡率が高くなるという仮説の検証を行った。
2014年5月に0.16haの範囲に存在する当年生実生を個体識別し、座標位置の記録、DNA解析用試料の採取、主軸成長量および生死の調査(2014年〜2024年)を行った。実生の周囲20m以上に存在する林冠木からもDNA解析用試料を採取した。全ての実生および林冠木について12座のマイクロサテライトマーカーを用いてフラグメント解析を行い、血縁度を求めた。また距離に応じた血縁度の効果を考慮するため、逆距離重み付け法を用いて各実生の周囲の林冠木と実生との血縁度の加重平均を算出した。求めた血縁度と実生-林冠木間の距離、また実生の死亡の有無との関係について一般化線形モデルを用いて解析を行った。
発芽当年および翌年の実生死亡と周囲の林冠木との血縁度に有意な関係はみられなかった。つまり、発芽後1年間は20m以内の林冠木との血縁度による負の影響を受けないと考えられた。また、血縁度が最も高い林冠木との距離を解析した結果、林冠木から中程度の距離(10~20m)に実生が多く分布し、この傾向は対象コホートの樹齢が高くなっても維持された。これらの結果から、ブナは発芽時までに天敵による被害を受けて当年生実生集団発生時には既にJanzen-Connellモデルが示す実生の分布パターンが形成され、維持される可能性があると考えられた。