| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-096 (Poster presentation)
国の天然記念物である鳥取県唐川のカキツバタ群落では、湿原の劣化が危惧されている。保全に向けて植生調査から植生図を作成し、現状の群落状況を把握するとともに、過去に行われた調査から約半世紀の湿原植生の変化を分析した。2024年に植生調査を実施し、表操作により常在度表を作成して群落を識別した。空撮画像と現地踏査に基づき植生図を作成した。過去の植生図(1980-81年、1988年、2021年)と比較した。また、湿原植生を代表する種を選定し生育分布を推定した。湿原内ではススキ群落、オオユウガギクーササガヤ群落、カキツバターミソハギ群落、オオイヌノハナヒゲーアリノトウグサ群落の計4群落が識別された。ススキ群落は草丈2m以上のススキが優占し,湿原の一部をなす放棄水田や水路の下流部付近でみられた。オオユウガギクーササガヤ群落はオオユウガギクやササガヤといった半乾燥からやや湿った場所を好む種やヤノネグサ、ミゾソバ、カサスゲなどが生育し,周縁部にみられた。数種が優占するために出現種数は少なかった。カキツバタ-ミソハギ群落は高茎種や低茎種とともにカキツバタが生育する唐川湿原の代表的な群落であり,湿原中央を取り囲む場所にみられた。オオイヌノハナヒゲーアリノトウグサ群落は低茎植物が生育し、低植被率で出現種数は少なく,湿原中央の貧栄養・高地下水位環境にみられた。カキツバタの分布面積は1980-81年の約4000m²から2024年は約2500m²に減少したが、オオイヌノハナヒゲの分布に大きな変化はなかった。一方、ネザサ・ススキとオオユウガギクの面積が増加した。いずれも湿原環境の乾燥化を示す種であるが、1980年代から増加傾向にあったネザサ・ススキに対して、オオユウガギクは2021年から急増した。さらに、ユウスゲの消失、カキツバタとサワギキョウの減少、コアゼガヤツリやヒメジソの増加が確認された。唐川湿原内の植生変化は長期的な乾燥化を示しており、保全には地下水位の改善が必要である。