| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-098 (Poster presentation)
阿蘇地域には日本最大規模の半自然草原が広がり、多くの草原生植物にとって重要な生育地となっている。しかし、近年の草原面積の大幅な減少に伴い、多くの草原生植物が絶滅の危機に瀕している。そこで認定NPO法人阿蘇花野協会は、管理放棄されたスギ人工林において、伐採・野焼き・採草などの管理を実施し、草原再生を目指している。本研究では、管理開始から12年間の草原再生の進行状況を評価し、植生の変化を明らかにすることを目的とした。スギ人工林皆伐地に56コドラートを設置し、2011〜2016年および2023年の8~9月に植生調査を行った。解析には、伐採前・伐採後1~5,12年目と、比較対象として採草地(管理が継続して行われている草原)のデータを用いた。
TWINSPAN・INSPAN・NMDSや各種の被度や出現頻度データを用いた解析の結果、伐採前は林床植物が優占していたが、伐採後1年目には一年生草本・一年生帰化植物・小低木が増加した。2~5年目には多年生帰化植物・小低木が特徴的な植生となったが、3年目以降はススキの被度が増加し、セイタカアワダチソウやキイチゴ類の被度が減少した。12年目には、採草地の指標種であるヤマハギやアキカラマツなど10種の草原生植物が増加傾向を示した。TWINSPANでは、12年目の植生は採草地と異なるクラスターを形成したが、NMDSでは12年間を通じて種組成が採草地へ近づいていた。ただし、12年目の出現種数は採草地より有意に少なかった。したがって、12年目の植生は徐々に採草地の状態に近づきつつあるが、まだその水準には達していないと考えられる。種組成の変化には、野焼きの継続、風や昆虫による種子の移入、シードバンクからの発芽が寄与したと考えられる。一方で、ススキによる被陰やセイタカアワダチソウのアレロパシー・地下茎の繫茂が、採草地水準への到達を妨げた可能性がある。