| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-102 (Poster presentation)
複雑地形の上に成立する山地森林では、微地形に応じた植物が生育しており、それにより植生のβ多様性が維持される。尾根・谷といった微地形と植生の対応関係は山地森林の多様性維持機構の中でも重要な構成要素である。一般に谷部は尾根部に比べて土壌が湿潤であるため、土壌水分環境が微地形と植生を関連づけているとされる。一方で、特に谷頭部では地表攪乱による土壌侵食や堆積が生じるため、植物個体のターンオーバーや土壌深の変動による植生への影響も生じる。そこで、山地谷頭部における下層植生は土壌水分や地表攪乱に対しどのように変化するのかを明らかにする。
調査は山形大学農学部演習林内のブナ林内で谷の横断面と縦断面の植生調査を組み合わせておこなった。谷の横断面の調査では尾根部から谷部にかけてどのように植生が変化するのかを明らかにすることを目的として、谷頭部を含む谷を横断した40m×80mのプロットを設置し、その内部に2m×2mのサブプロットを109個設置した。谷の縦断面の調査では3つの3次谷流域において、全ての1次谷の谷頭部から順番に谷の合流を考慮に入れながら2m×2mのサブプロットを202個設置した。両調査ともにサブプロット内に生育するすべての維管束植物の個体数と最大植物高を測定し、地形要因として斜度および土壌深、環境要因として土壌水分、土壌硬度、開空度を測定した。
全体として尾根では木本植物が多く、谷では草本植物やシダ植物が多い傾向にあった。各環境要因と植物の個体数の関係をみるとこのすみわけは土壌水分よりも土壌深度のほうがより説明がつくことが分かった。冬季は積雪による沈降圧が生じるため地上部が残る木本植物は根系の物理的抵抗力が必要となるため土壌深が必要となると考えた。一方で、谷の縦断方向で考えると、下流になるにつれ侵食斜面と堆積斜面の空間変動が極端になり、堆積斜面には木本植物が多くなることが分かった。