| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-104 (Poster presentation)
自然界で観察される生物群集は、「ある一定区域」に生息する種の集まりと定義される。一方で、その形成プロセス(群集集合則)は、群集を定義する空間サイズ(空間解像度)によって変動することが知られている。しかしながら、群集集合則は、対象とする生物種及び環境の性質に依存することから、空間解像度がどのように作用するかの課題は十分に検討されていない。そこで本研究では、地上部-地下部の物質循環を介して生態系を構成する植物と土壌微生物に着目し、空間解像度に沿った群集集合則の変動パターンを解析した。さらに、それらを支える要因の解明を、両群集の世代時間や分散能力を含む生活史様式の比較検討から試みた。
調査地として、パナマのバロ・コロラド島を選択した。この調査地には、1980年代に設立された50haの森林調査プロットが存在し、極めて広域的な森林生態系の空間解像度を連続的に操作できる。そこで、公開データの樹木、土壌真菌、細菌の系統的多様性情報を活用し、帰無モデルを用いた群集集合則の解析を行うことで、各群集の形成を支える要因を空間解像度に沿った変動パターンから比較した。
それらの結果、群集の過剰分散(overdispersion)は、すべての分類群において空間解像度の増加とともに生じ、種間相互作用や微環境への応答が局所的な空間スケールに反映されることが示唆された。一方で、空間解像度の低下は、環境の均一化を促進するにも関わらず、群集の過小分散(clustering)は土壌細菌のみで観察された。植物との共生や有機物分解にかかわる土壌真菌では、樹木同様の変動が観察されたことから、これらパターンの相違には分散能力や植物―微生物の相互作用メカニズムの関与が考えられる。以上の結果から、生物群集の形成プロセスが群集を定義する空間サイズに駆動されており、生物群集の特性がその変動パターンを生み出す要因となることが示唆された。