| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-107 (Poster presentation)
高山生態系は孤立性が高く、また気候変動下での温度変化の程度も大きいと予想されており、気候変動が生物に及ぼす影響を研究する上で重要なモデルシステムとなる。高山では、春期、アブラムシが鳥類の主要な餌資源となり、そこでの生物群集の維持に重要な役割を果たすことが明らかになっている。つまり、高山生態系は、種間相互作用を通じて複雑に広がる気候変動の影響を検討するにも適したシステムである。植食性昆虫は、気候変動の直接的な影響(温度ストレス)と、ホスト植物を通じた間接的な影響(ホスト植物とのフェノロジカルミスマッチ)の両方を受けると考えられるが、これらを包括的に評価した研究が必要である。本研究では、亜高山性アブラムシ2種 (Euceraphis ontakensis および E. caerulescens) の将来的な動態を予測するため、温度とホスト植物であるダケカンバ (Betula ermanii) の影響を、3年間の野外調査と3種類の室内実験を組み合わせて検討した。野外調査の結果、アブラムシとホスト植物のフェノロジーはいずれもほぼ温度の影響のみで決まり、アブラムシは日平均気温が6°Cから13°Cの環境に生息していることが明らかになった。室内実験では、12°C以上の環境では生存率が低下し、高温環境では活動量が減少することが確認された。さらに、アブラムシはどの展葉進度でも生存・成長できることが示され、ホスト植物の広いフェノロジカルウィンドウを十分に活用できることが示唆された。これらの結果から、高温がアブラムシの動態に強い負の影響を及ぼす一方で、将来的にホスト植物とのフェノロジカルミスマッチが生じる可能性は低いことが示された。温暖化が起きた場合、高温の直接的な影響により、アブラムシの空間的な分布域が高標高に押し上げられて縮小することで、高山生態系が大きな影響を受ける可能性がある。