| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-111 (Poster presentation)
従来、一斉産卵のような繁殖イベントの生態学的機能は捕食-被食系の文脈で議論されてきた。一方で、両生類の中にはハビタットを埋め尽くすように卵塊を一斉産卵するものがいる。このような卵塊は、生物自身の組織が周辺環境の生物的・物理的状態を改変することで他生物の資源利用を変化させる「自成型生態系エンジニア」として機能するかもしれない。この予想の検証は、生物の繁殖イベントが持つ非捕食-被食プロセスを通じた生態学的波及効果を明らかにするものであり、生物間相互作用の包括的理解に貢献する。本研究では、樹上産卵性アオガエルの一種であるモリアオガエルの卵塊(泡巣)を用いて、両生類卵塊が生態系エンジニア機能を有するかについて、以下の2点に焦点をあてて検証した。①卵塊は、樹上の植食者の密度に影響する捕食者を誘引するか、②卵塊は、植物病原性細菌を誘引するか。調査は、静岡県内にある棚田と静岡大学南アルプスフィールドの2地点で行った。①の検証では、インターバル撮影装置を用いて産卵から孵化までの15日間に卵塊に誘引された無脊椎動物を記録した。②では、16SrRNA遺伝子のアンプリコンシーケンス法を用いて卵塊内の細菌叢を分析した。結果、モリアオガエルの卵塊には13目108種を超える無脊椎動物が誘引され、その中には植食者の密度に強く影響するハチ目やクモ目などの分類群が含まれた。また、その比率は卵塊が産卵された樹高や産卵からの日数によって大きく変わった。細菌叢解析では、卵塊内から、植物病原菌を多く含むシュードモナス属細菌が高い存在比で検出された。実際、卵塊が産み付けられた葉が枯れる現象がしばしば観察された。これらの結果から、モリアオガエルの卵塊は、樹木の生理状態に大きく影響する生物・微生物の誘引を介して樹上生物群集の資源利用を改変しうることが示された。今後は、卵塊の設置・除去による操作実験を行い、その機能を直接的に検証していきたい。