| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-113 (Poster presentation)
水産資源量の減少が懸念されてから久しい。世界各地域で資源管理策が講じられつつも、その実施の進捗状況や回復目標の達成効果には大きなばらつきがあります。さらに、現在の漁業管理のアプローチでは資源の回復を達成するには不十分である可能性があり、その効果における主要な不確実要因の一つが気候変動であるとされています。海洋フロントは物理的および化学的特性の急激な勾配を特徴とする異なる水塊の境界領域を指し、気候変動によってその分布が変化することが予測されています。水産資源にとっては、海洋フロントは一次生産のホットスポットとして重要な環境であり、その影響を理解することは、持続可能な漁業を管理する上で必要不可欠と言えます。しかしながら、これまでの研究では、生物分布推定モデルをはじめとする生物モデルへの海洋フロントの効果を考慮する方法はグローバルスケールでの評価にとどまっており、より小さな地域スケールにおける海洋フロントの影響を捉えることはできていません。
本研究では、約2㎞グリッドの高解像度海洋物理データを活用することで、北太平洋日本周辺海域の海洋フロントの分布を捉え、海洋フロント間で密度や水温の偏差が異なることを確認しました。そして、対象海域に生息する30種の底魚資源(6亜種を含む)の単位努力量あたりの漁獲量に対する海洋フロントの影響を一般化線形混合モデルで網羅的に検証しました。その結果、18種の魚種で水温や海底堆積物といった環境要因に加えて、海洋フロントの変数を含めた場合にモデルのAICcが低下することがわかりました。この結果は、気候変動下において底魚資源の分布が、水温の影響だけではなく、海洋フロントによっても制限される可能性を示唆しており、水産資源の分布推定・予測において海洋フロントの影響を考慮したモデルの活用が期待されます。