| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-114 (Poster presentation)
コウモリのほとんどの種は森林に依存した生活史を有することが知られている。2021年に世界自然遺産に登録された奄美大島には8種のコウモリが生息することが知られており、その内4種が環境省レッドリストによって絶滅危惧に指定されている。これらのコウモリの保全を行っていくうえで、森林の生息地利用に関する知見が必要になるが、各分類群が利用する森林の地形、林齢等の環境要因に関する知見はいまだ不足している。本研究では録音調査によって上記の要因を明らかにし、保全に向けた情報を蓄積することを目的とした。
奄美大島の役勝川流域の森林に地形及び林齢の異なる計22か所の調査地を設定した。各地点に自動録音装置(以下BD)を設置し2024年7月5日から7月18日にかけて調査を行った。日没から3-4時間後まで、及び日の入り3-4時間前から日の入りまでのそれぞれの時間帯で15分おきに2分間録音を行うようBDを設定した。録音した音声の中で連続して記録されたパルス(間が0.5秒以内)をコウモリが通過したと仮定し、活動量と定義した。音声はパルスの形状や周波数からオリイコキクガシラコウモリ、シナオオアブラコウモリ、リュウキュウテングコウモリ、Miniopterus属&Pipistrellus属&Myotis属(以下MPM)、Tadarida属の5つの分類群に識別された。環境要因として調査地点の標高、林齢、地形(尾根/谷)を利用し、コウモリ各分類群の活動量との関係をGLMで検証した。
解析結果から特に地形は多くの分類群の生息地利用に有意に影響することが示され、オリイコキクガシラコウモリ、シナオオアブラコウモリ、オヒキコウモリ属は尾根を、MPMは谷を多く利用することが示された。また、林齢の高い森林がMPMとオヒキコウモリ属により多く利用されていることが併せて示された。本研究の結果から他の地域と同様に奄美大島においても老齢の森林の重要性が改めて示され、尾根と谷がそれぞれ異なる分類群の重要な生息地として機能することが示唆された。