| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-115  (Poster presentation)

八代海の海草藻場に生息する葉上動物の群集構造の時空間変動とその変動要因【A】【O】
Spatiotemporal variation and factors affecting its variation in the epifaunal community structure in seagrass beds at Yatsushiro Bay, Kyushu, Japan【A】【O】

*飯盛時生, 山平茜莉, 逸見泰久, 山田勝雅(熊本大学)
*Tokio ISAKARI, Akari YAMAHIRA, Yasuhisa HENMI, Katsumasa YAMADA(Kumamoto Univ.)

沿岸浅場域に海草であるアマモ (Zostera marina) が繁茂する「アマモ場」には,生物多様性の高い生態系が形成されている.アマモ場には多様な甲殻類,貝類,多毛類などの小型無脊椎動物種が生息し,その中でも生活史の中でアマモへの依存度が高いものは,葉上動物群集と総称される.葉上動物群集はアマモ場に蝟集する魚類の重要な餌料となっており,生産者と高次捕食者をつなぐ役割を担っている.葉上動物の群集組成の時空間変異には物理化学的要因(水質や底質)だけでなく,生物間相互作用(アマモの繁茂や被捕食)も影響し,これらの要因は複雑に絡み合い,その影響のプロセスも状況依存的であることが先行研究で示唆されている.一方で,いくつかのシナリオに基づくことで,葉上動物の群集構造の決定プロセスを紐解けると考えられる.本研究は,八代海(熊本県)のアマモ場を対象に,葉上動物の群集構造の時空間変動に影響を及ぼす要因の相対重要性を評価することを目的とした.
八代海の4定点のアマモ場をランダムに選定し,2024年春~秋にかけて,アマモの繁茂状況と葉上動物の群集構造を定量評価した.アマモはコドラート法で採集し,株数,草丈,乾重量を計測した.さらに,各アマモ場の底上水質を測定した.葉上動物は,そりネットを用いて定量採集し,顕微鏡下で同定・計数した.
アマモ場の繁茂状態は定点間で異なるだけでなく,全地点で季節的に(夏~秋)衰退した.葉上動物の群集構造は,定点間で有意な差が認められなかったのに対し,季節間では有意に異なっていた (ANOSIM).全定点において春季には端脚類が,夏季以降は腹足類が優占するという置き換わりがみられた.また,アマモの立体構造と底質の時空間的変動が,葉上動物の群集構造の変化をもたらす主要な要因であった (RDA).これらの結果から,底質の改変に伴ってアマモが衰退するというプロセスが,葉上動物の群集構造の変動をもたらす要因のひとつであることが示唆された.


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