| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-118 (Poster presentation)
森林性ネズミ類の中には,葉等を巣内に搬入し,営巣資源(以下,巣材)として利用する種が存在する.搬入された巣材の存在によって巣の内部環境が改変され,節足動物等の他の生物種の微小生息地が形成されることがある.そして,巣材として利用される植物種の種類によって,巣内微小生息地を利用する節足動物等の生物種が異なるかもしれない.そこで本研究では,ネズミ類によって搬入された植物巣材の種類および巣内に存在する節足動物相を調査し,どの様な巣材から成る微小生息地がどの様な節足動物に利用されるのかを明らかにすることを目的とした.本研究では樹洞に巣材を搬入し繁殖場所や住みかとして利用することが知られているヒメネズミを対象種とした.本種は樹洞の代替として巣箱を利用することから,これを用いることで搬入された巣材を容易に回収することができる.調査地は,帯広市に位置する帯広畜産大学構内の針広混交林,足寄町に位置する九州大学北海道演習林内の天然生落葉広葉樹林とした.2023年と2024年に各調査地に設置された巣箱から本種が集積した巣材を回収し(n=56),これらの中に存在する節足動物をツルグレン装置を用いて抽出後,実体顕微鏡を用いて目レベルで同定を行った.さらに,各巣箱の内部環境要因として巣材の乾燥重量を計測し,利用された植物種を目視で同定した.巣箱内における 植物種とこれらを利用する節足動物種の関係を調べるために,各植物種の重量割合(全巣箱のうち半数以上の巣箱で確認された種を選択した)と抽出された各節足動物種の個体数についてSpearmanの順位相関係数を求めた.その結果,クモ目はササと負の相関を示し(ρ=-0.39),ダニ目はハルニレと正の相関を示した(ρ=0.30).本研究の結果から,巣材として集積された植物の種構成の違いによって,巣を利用する節足動物相が変化する可能性が示唆された.