| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-120 (Poster presentation)
特徴的な匂いのする物質を分泌して捕食者から身を守る動物が、さまざまな分類群で知られている。こうした分泌物には、従来、匂いによって分泌物そのものや自身の有害性を捕食者に警告する機能があると考えられてきた。しかし実際には、分泌物や被食動物にそのような有害性が認められない場合も少なくない。また、分泌物の匂いは、被食回避のためなら瞬間的に効果を発揮するだけで十分であるにもかかわらず、しばしば長時間残留することが知られている。そこで我々は、捕食者に襲われた動物が分泌する匂い物質には、捕食者の体表に付着し、後にその捕食者にとっての天敵(高次捕食者や寄生者)を誘引する、いわば「呪い」のような効果があるという仮説(「呪い仮説」)を新たに提案した。
そして、シマヘビを被食者に、アオダイショウを高次捕食者にそれぞれ想定して、本仮説の検証をおこなった。ヘビ類は一般に、外部から刺激を与えると臭腺から匂い物質(臭腺分泌物)を分泌する。シマヘビを含むヘビ類の主な天敵は猛禽類などの鳥類であり、日本ではこれらの鳥類をアオダイショウの成体が捕食することがわかっている。Y字迷路を用いた行動実験の結果、アオダイショウの成体は、シマヘビの臭腺分泌物に誘引されるが、シマヘビの皮膚臭やアオダイショウ自身の臭腺分泌物には誘引されないことがわかった。さらに、鳥類嗜好性が低いアオダイショウの幼体は、シマヘビの臭腺分泌物には誘引されないことがわかった。
これらの結果は、シマヘビの臭腺分泌物がシマヘビ捕食者の捕食リスクを増大させる可能性を示唆し、「呪い仮説」を支持するものである。本研究は、被食動物が分泌する臭い物質が捕食者の天敵を介して被食回避に寄与するという、新たな間接防御機構の存在を示唆している。