| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-123  (Poster presentation)

ナマコの生物攪拌で何が起こる?潮間帯の生態系への影響【A】【O】
Effects of Sea Cucumber Bioturbation on Intertidal Ecosystems【A】【O】

*岩谷将文, 和田葉子(宮崎大学)
*Masafumi IWATANI, Yoko WADA(Miyazaki Univ)

生物の中には、造巣や摂餌によって生息場所の環境を物理的に改変する「生態系エンジニア」と呼ばれる種が存在する。その中でも、ナマコのように底質環境を改変する生物は「生物攪拌者」と呼ばれる。ナマコは堆積物の摂餌・攪拌・排泄を通じて、クロロフィル量や有機物量に影響を与えることが知られている。しかし、ナマコによる堆積物環境の変化が周囲の生物の個体数や種数に与える影響は明らかになっていない。
本研究では、まずコドラート調査を行い、ニセクロナマコ (Holothuria leucospilota) の生息とベントスの種数・個体数・種組成との関連性を調べた。その結果、ニセクロナマコが生息する場所ではベントスの種数が増加していた。さらに、全期間で10個体以上確認された種の種組成を比較すると、ニセクロナマコの有無にかかわらず高い類似度を示した。一方、種数の増加に寄与したと考えられる生物は、全期間で10個体未満の種であり、それらの多くは貝食性であった。
次に、野外にニセクロナマコの存在区と非存在区を設置し、堆積物中のクロロフィル量・有機物量、およびベントスの種数・個体数・種組成を比較した。その結果、個体数と種数はナマコ存在区で有意に増加していた。特に、個体数の増加に最も寄与していたのは微小貝であった。一方、クロロフィル量と有機物量には、ナマコの有無による有意な違いは見られなかった。
これらの結果から、ニセクロナマコの生物攪拌によって微小貝が増加し、その結果としてベントスの種数が増加したと考えられる。


日本生態学会