| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-124 (Poster presentation)
捕食者は「食う以外の効果」によって被食者の行動を左右する。水生生物の食う―食われる関係において、これまでは捕食者の「遠隔的な刺激」が注目されてきた。例えば、水中で捕食者が出す化学物質は、被食者の採餌などの活動を抑制することが分かっている。これを示した実験では、水を通す容器などで捕食者を囲うことで実際の捕食を防ぎ、見事に捕食者の「食う以外の効果」を単離してきた。一方で、捕食者を囲うと「近接的な刺激(接触や接近など)」が見過ごされてしまう。例えば、捕食者に接触・接近された被食者は活発に逃げるだろう。捕食者の「近接的な刺激」は、被食者の逃避頻度を上げることで、被食者が餌に遭遇する頻度を上げ、結果として被食者の採餌頻度を上げることが予想される。本研究では、この予想を池の生物を用いて確かめた。具体的には、捕食者であるヤゴが、被食者であるエゾサンショウウオ幼生の行動や共食いの頻度に与える影響を調べることで、捕食者の「近接的な刺激」の効果を検討した。我々は水槽実験において、(1)ヤゴなし処理、(2)ヤゴを囲う処理(遠隔的な刺激)、(3)ヤゴを囲わない処理(遠隔的・近接的な刺激)を用意し、それぞれのサンショウウオ幼生の共食い頻度を調べた。結果、共食い頻度は(1)ヤゴなし処理と(3)ヤゴを囲わない処理では有意な差はなく、(2)ヤゴを囲う処理のみにおいて有意に少なかった。これは、(3)におけるヤゴの「近接的な刺激」の効果が「遠隔的な刺激」の効果を相殺し、サンショウウオ幼生の共食い頻度を従来の想定(遠隔的な刺激のみを考慮した場合)よりも減らさなかったことを示している。我々はさらに、サンショウウオ幼生の動きの詳細な解析を行うことで、ヤゴの「近接的な刺激」により共食いが起こる過程を詳らかに解析した。発表では、これらの結果をもとに、捕食者の「近接的な刺激」が被食者に与える帰結について考察する。