| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-127  (Poster presentation)

低線量放射線への暴露が線虫群集に及ぼす影響【A】【O】
Effects of low-dose radiation on nematode communities【A】【O】

*原田匠(千葉大・理), 村上正志(千葉大・院・理)
*Takumi HARADA(Fac. Sci., Chiba Univ.), Masashi MURAKAMI(Grad. Sci., Chiba Univ.)

2011年に発生した福島第一原子力発電所事故により大量の放射性物質が放出された。空間線量は事故直後より減少しているが、依然として原発の北西方向には高線量帯が分布し、特にCs137の残存が顕著である。生態系における慢性的な被ばくの影響が懸念されるが、これを検討した研究は少ない。低線量放射線の慢性的な被ばくの影響を検出するには適切なエンドポイントの設定が重要であるが、生物群集構造が示す環境要因に対する高い指標性は、影響の検出についてその可能性を示すものである。チェルノブイリ事故では線虫群集について、多様性の低下が確認されている。本研究では群集構造評価の方法が確立されている線虫群集を用い、線量とその他の環境要因を測定しそれらがどのように線虫群集に影響するかについて調べた。福島県と山形県において13地点で土壌サンプルを採取し、ベールマン法にて線虫を抽出した。線虫の同定は400倍の生物顕微鏡下で撮影した画像を用いて行った。同定した線虫から既存の6つの群集構造指標を算出した。環境要因として、土壌のセシウム(Cs137)濃度、容積重、C/N比、pHを測定した。解析はRDA(冗長性解析)とGLMにより行なった。MI(Maturity index)は全ての地点でほぼ3となり、チェルノブイリ原発における先行研究と比較して撹乱の影響は小さかった。RDAの結果では容積重が最も線虫群集のばらつきを説明したが、セシウム濃度の効果はP = 0.052 と有意な傾向が見られた。GLMでは、BI、SI、EIの3つに対し容積重が有意に影響を与えた。以上の結果から、今回の調査地において放射線曝露は線虫群集に有意な影響を与えていたとは言えなかった。しかし、GLMにおいて容積重の影響が大きく、また容積重とセシウム濃度の交絡が見られたことから今後さらにサンプリングデザインを吟味し、地点を増やす必要があると考えている。


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