| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-128  (Poster presentation)

木材腐朽菌の種の違いが枯死木に飛来する甲虫群集へ与える影響【O】
Effects of wood decay fungus species identity on beetle communities visiting deadwood【O】

*小林卓也(森林総合研究所)
*Takuya KOBAYASHI(FFPRI)

枯死木は、森林に生息する多様な生物の栄養源・生息場所として重要な役割を果たしている。枯死木は分解する木材腐朽菌類のタイプによって基質の特性が異なり、その違いは枯死木に関連する生物群集影響を与えると予想される。そこで本研究では、枯死木に飛来する甲虫類を対象として、腐朽する菌により甲虫群集の応答が異なるかを明らかにするため、人為的に単一の菌種に腐朽させた材を用いた野外実験を行った。4種の腐朽菌類(カワラタケ、キウロコタケ、マスタケ、ヤニタケ)の菌糸を滅菌したコナラ丸太(直径10cm、長さ20cm)にそれぞれ接種して約5ヶ月間培養した。培養後、菌糸の接種をしていない滅菌丸太とともに、北海道札幌市の羊ヶ丘実験林内に設置した。丸太に近接した衝突板トラップを設置し、2024年6月の間に飛来する甲虫を採集した。採集したサンプルから外骨格を損なわない手法でDNAを抽出し、DNAメタバーコーディング法により塩基配列情報を取得した。形態と塩基配列情報から甲虫類の同定を行い、その種組成と丸太の処理(接種した菌類の種の違い)の関係を解析した。その結果、コントロール(丸太なし)のトラップに比べ、菌糸接種なしの丸太のトラップには多数種の甲虫が捕獲された。菌糸を接種した丸太では、菌種ごとに捕獲された種数にばらつきがあった。飛来する昆虫群集の組成は、重なりがあるものの、接種した菌類の種によって異なっていた。これらの結果は、枯死木には多数種の甲虫類を誘引される一方で、枯死木を分解する木材腐朽菌は、それぞれ異なる甲虫類に対して誘引あるいは忌避効果を持つことを示唆している。


日本生態学会