| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-129 (Poster presentation)
水生昆虫は、水中もしくは水面で過ごす期間を生活史に持つ昆虫類の総称であり、生息地の改変や侵略的外来種などの影響により、多くの個体群が減少傾向にある。水生昆虫の多様性を効果的に保全するための戦略は、出現種数が多い生息地の存在や限られた生息地のみに出現する種の存在などによって異なるため、群集構造とそれを形成する要因の理解が重要である。本研究では、千葉県印旛沼流域の谷津を対象として、そこに生息する水生昆虫の群集構造を記述するとともに、群集構造を形成する要因について検討した。群集構造を形成する要因として、谷津の湧水、侵略的外来種、耕作放棄などに注目した。
調査は、千葉県印旛沼流域からランダムに選定した24箇所の谷津で行った。水生昆虫は、タモ網を用いた掬い取り法により調べた。水生昆虫に影響する環境要因として、谷津の集水域面積、集水域のうちの浸透面面積と浸透面割合、アメリカザリガニの密度、耕作放棄の有無などを用いた。
調査の結果、合計で24の分類群の水生昆虫が確認できた。入れ子構造の指標としてNODFを計算したところ、水生昆虫群集は有意な入れ子構造を示した。また、群平均法による解析の結果、水生昆虫群集は、同所的に出現する多くの分類群を含むクラスター1と、少数の分類群からなる14のクラスターの計 15 クラスターに分かれた。クラスター1に属する分類群は普通種として多くの谷津に共通して出現し、他のクラスターに属する分類群は一部の谷津に集中して出現したことにより、入れ子構造が形成されたと考えられた。また、出現する分類群数に対して集水域面積が有意な正の効果をもっていた。これは、集水域面積が、谷津における湿地の成立のしやすさや生息地の面積を間接的に示しているからだと考えられるが、より直接的な指標を用いた今後の分析が必要である。本発表では、追加の分析結果についても紹介したい。