| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-131 (Poster presentation)
海には、サンゴや牡蠣などの硬い殻や外骨格を形成する生物が数多く存在する。近年、これらの生物が死後に残す殻や外骨格などの遺骸が生息地として機能し、他個体や群集構造に影響を及ぼすことが明らかになってきた。
フジツボ類の硬い石灰質の殻は、フジツボの死後も数ヶ月にわたり海岸の岩盤上に残存する。死殻は高温、乾燥、波あたりなどの環境ストレスを緩和するシェルターとなり、岩礁潮間帯の生物群集に影響を及ぼしている可能性がある。しかし、フジツボの死殻内の生物群集を精査した研究は少ない。そこで本研究では、クロフジツボの死殻の利用状況と群集構造を明らかにし、その機能を考察することを目的とする。
2024年の5月に和歌山県白浜町の潮間帯において、6つの転石からクロフジツボの死殻とその内部の生物を全て採集し、同定とサイズを計測した。環境要因として、付着潮位、死殻の高さ、底部および開口部の長さ、死殻上の海藻の有無、死殻内における海藻の各目の有無を記録した。また、死殻の高さ、底部および開口部の長さから死殻の容積を算出した。死殻間の動物の種組成の差異をクラスター解析で評価し、指標種を特定した。さらに、死殻内の動物の種組成と環境要因との関係を解析した。
調査の結果、発見した94個の死殻のうち92個から計2329個体の動物を確認し、それらは38科37種に分類された。死殻内の種組成は5つのグループに区分され、その種組成は転石ID、付着潮位、死殻自体の高さ、外側の海藻の有無や死殻内のスギノリ目海藻の存在に応じて異なった。また、フジツボの捕食者である肉食性巻貝イボニシの死殻利用率は26%と高く、死殻の存在により捕食者の採餌パッチが変化し、死殻周囲の局所的な捕食圧を高めることが示唆された。さらに、ハネカクシ科などの陸生動物も死殻を利用することや、ヨコエビなどの繁殖場所としての利用も確認され、死殻が予想以上に多様な機能を持つことが示唆された。