| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-135  (Poster presentation)

森林および開放地における捕食性タマバエ(ハエ目:タマバエ科)の季節発生消長【A】【O】
Seasonal occurrence of predatory gall midges (Diptera: Cecidomyiidae: Lestodiplosini) in forests and open lands【A】【O】

*山佐啓斗, 日南瑶, 古川昌啓, Elsayed K. AYMAN, 徳田誠(佐賀大学)
*Keito YAMASA, Haruka HINAMI, Akihiro FURUKAWA, Elsayed K. AYMAN, Makoto TOKUDA(Saga Univ)

生物の個体群密度は環境要因のほか、食物資源や天敵、競争者からの影響によって制御されている。なかでも捕食性天敵によるトップダウン効果は、被食者の密度制御の主要な要因として古くから研究されており、捕食者の生態や捕食対象を解明することは、個体群動態の理解を深める上で重要である。近年の複数の研究から、昆虫の中でもハエ目タマバエ科(Cecidomyiidae)の種数がもっとも多いことが指摘されているものの、本科の推定種数に対して学名が付けられている種は1%に満たず、その全貌はいまだ不明のままである。タマバエ科には、植食性のほか、菌食性、捕食性など、多様な食性を持つ種が含まれており、植食性の種に関しては虫えい形成性の種を中心に研究が進んでいる。一方、捕食性の種に関しては重要害虫の天敵であるごく一部の種を除き、知見は断片的である。本研究では、生態系における捕食性タマバエ類の多様性を明らかにする目的で、佐賀県内の森林2地点および開放地2地点において調査を実施した。2022年5月〜2023年3月に飛翔性昆虫を捕獲するマレーズトラップを用いて捕食性タマバエを採集し、季節発生消長を調査した。さらに、形態および分子系統解析を行うとともに、捕食対象種の調査も実施した。その結果、Cecidomyiinae亜科に属する複眼全体が3つのかたまりに分かれた個体(以下、三つ目)が多数採集され、形態および分子系統解析により、これらは捕食性のOdontodiplosisおよびTrisopsisであると考えられた。解析した三つ目個体約100頭は30以上のOTUに分けられた。両属とも国内ではTrisopsis属の1種しか過去の記録がなく、多くが未記載種である可能性が高い。三つ目は森林で多く採集され、夏にかけて捕獲個体数が増加した。一連の調査を通して、国内の捕食性タマバエは多様であり、未解明の種が多数含まれていることが判明した。今後、これらの種の寄主や生態を調査することにより、生態系における役割の解明が期待される。


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