| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-136 (Poster presentation)
腸内マイクロバイオームは宿主のエネルギー代謝のみならず、免疫や行動にも影響を与える、個体の生存に欠かせない形質である。さらに宿主の社会性も腸内マイクロバイオームの多様性を形づくる重要な要素であり、腸内細菌が親しい個体間で水平伝播するという「社会マイクロバイオーム」のコンセンプトが近年提案されている。とりわけ多くの嫌気性細菌にとっては宿主の社会的近接が重要な分散機会であることが報告されている。ヒトを含む多くの動物で社会マイクロバイオームの証拠が集まりつつあるが、多種からなる共生系での検証は家畜種を除き全くない。本研究が対象とするアカオザルとブルーモンキーは、熱帯アフリカの森林部に生息し、混群を形成してともに遊動や採食をおこなう。ウガンダ共和国カリンズ森林において、恒常的に混群を形成する群れを調査し、個体どうしの1 m以内の近接頻度を記録した。糞便サンプルを用いて、16S rRNA解析によって腸内細菌の組成を調べた。その結果、2種の腸内細菌組成は非常に似ていることが明らかになった。また、種間相互作用頻度が増加するにしたがい、有意に増減する細菌系統群が複数存在した。ネットワーク解析を用いて腸内環境における細菌どうしの関係を推定したところ、アカオザルとブルーモンキーの種間相互作用によって有意に増加する細菌の中には、腸内細菌ネットワークのハブとして機能する可能性のある細菌がいた。これらの細菌はほかの細菌どうしを繋げることで、豊かで頑健な腸内細菌群集の実現に貢献し、宿主の健康や生存に寄与する可能性がある。本研究により、異種どうしという本来は異なる腸内の形態的・栄養的環境をもつはずの二者間においても社会マイクロバイオームが存在し、腸内の閉鎖的な環境どうしの接続を通じて宿主・細菌の双方に利益をもたらす可能性が野外共生系において初めて示された。