| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-138 (Poster presentation)
農地生態系やその周辺の生態系においては,害虫の抑制を目的として殺虫剤が頻繁に使用されており,非標的種に甚大な影響を与えている.とくに,水田およびその周辺の淡水生態系においては,殺虫剤曝露による水生昆虫の減少事例が多数報告されている.さらに,高温下では殺虫剤の効果が強まる特性上,水生昆虫に対する殺虫剤の影響が,温暖化の進行に伴い強化されることも予想される.一方で,羽化後(成虫期)の水生昆虫の多くは,陸域生態系において捕食者の餌資源となるなどの重要な機能を果たす.このため,殺虫剤と水温上昇が水生昆虫の羽化量を変化させた場合,その影響は陸域生態系にも波及する可能性がある.それにも関わらず,農薬曝露と温暖化が水生昆虫に与える複合影響を調べた先行研究は,水中に生息する時期(幼虫期)の水生昆虫を対象にしたものがほとんどであり,羽化動態への影響については見過ごされてきた.そこで本研究では,淡水生態系を想定したメソコスムに4つの処理(無処理,水温上昇処理,殺虫剤処理,殺虫剤+水温上昇処理)を割り当て,羽化トラップ調査を通じて,殺虫剤と水温上昇の複合影響が水生昆虫(ハエ目など)の羽化動態にどのような影響をもたらすのかの実態を明らかにした.処理開始後1か月間で羽化したハエ目の個体数については,無処理とくらべて水温上昇処理で羽化量が増加したが,殺虫剤処理では減少した.殺虫剤+水温上昇処理では,ハエ目の羽化量が殺虫剤処理よりも少なく,羽化量の相乗的減少が確認された.ただし,水温上昇下では,水生昆虫の羽化するタイミングが変動する場合があるため,殺虫剤と水温上昇の複合影響が時間的に変化する可能性は否定できない.そのため本発表では,各要因が羽化個体数に与える複合影響の時系列変化についても解析結果を示した上で議論する.